『ときめきくらしびと』第5回 仁田トキコさん|住む場所で、暮らしと心は作られる―海に浮かべば澄んだ気持ちに

ストア:くらしきぬ掲載日:2022/02/07

ときめきくらしびと 第5回 仁田トキコさん

くらしきぬのお客様とのおしゃべりを通じて、日々の暮らしの中で「ときめき」を見つけるコツを探る『ときめきくらしびと』。第5回は、東京から葉山に移住し、フリーランスの編集ライターとして活躍する仁田トキコさんにお話を伺いました。

葉山の穏やかで健康的な暮らしについて、やわらかな表情でお話くださったトキコさん。すきな仕事と、家族との時間。トキコさんの生活はバランスよく満たされていて、どうしたらそんなに24時間を上手に使えるの?と思ってしまいます。しかしそこには、仕事と子育ての両立に悩んだ時期を乗り越えた強さがありました。人生には波が訪れるからこそ、フラットな心を育てることが大切なのかもしれません。

プロフィール

仁田トキコさん|神奈川県在住・編集ライター。兵庫県出身。「&Premium」「リンネル」「CREA」など、衣食住をテーマにさまざまな媒体で執筆。東京から山と海に囲まれた葉山へ家族4人で移住。日々、家族と海や山に出かけながら、週半分は都内や地方で取材撮影する暮らしを実践している。いつか暮らしたい場所は、一年中暖かいハワイ。

冷えていた頃を乗り越えて訪れた「転機」

―ライター・編集者として活躍されているトキコさんですが、今日までの道のりについて教えてください。
23歳から編集部で6年ほど働き、結婚を機に28歳でフリーランスになりました。それまでは、担当していたメンズファッション誌の仕事で各地の職人のもとを訪れ、地方を飛び回る日々でした。独立後はもっと自分の暮らしの延長線にある記事に取り組みたくて、女性誌やライフスタイル誌を増やしていきましたね。

―フリーランスになったことで、働き方も大きく変わりましたか?
変わりました。編集部にいた頃は当たり前のように徹夜の日があって、体がすごく冷えていました。フリーランスになったことで、一日の時間割を自分で立てられるようになって、体調も徐々に良くなっていきました。

―自分で時間割を立てられるのはいいですね。
一気に生活リズムが整いました。ただ、二人目が生まれた後に主人が単身赴任になり、また生活リズムが狂い始めて…体が冷えてしまいました。生活が不規則になると途端に冷えが出てきてしまうんですよね。子供二人を一人で育てながら編集ライターの仕事も続けていたため、当時は睡眠時間が3~4時間しか取れず、冷えは日常のふとしたことの積み重ねで起こるのだと実感しました。

―小さいお子さん二人をお一人で、はすごいです。
当時、ちょうど雑誌の連載が決まっていたので仕事も続けたくて、ここは根性で乗り切るしかない、と腹を括りました。仕事が終わってヘトヘトな状態でも、子育てはそこからが勝負。ご飯は立って食べていたし、髪を振り乱して、山姥みたいでした(笑)体も心も冷えていたので、東京以外の場所でもっとゆっくりと子育てしたいと思い、葉山に移住しました。

▲ 大変だった経験も、とっても朗らかに、明るく話してくださるトキコさん。
▲ 大変だった経験も、とっても朗らかに、明るく話してくださるトキコさん。
―仕事の便宜性を考えたら東京の方がよさそうだなと思うのですが、子育てする場所として葉山を選んだ決め手はどんなことだったのでしょうか?
エンドレスで仕事をできてしまうのが東京だと思うんです。街は一日中明るくて、それに伴って生活のメカニズムも狂ってしまう。そんなことではダメだと気づいて、海と山が近くにあって、都内にもなんとか通える場所ということで、鎌倉、逗子、葉山のあたりを探しました。

その中で、葉山を訪れたときに、ものすごく心を動かされてしまったんです。ただ、海に夕日が沈んでいるだけの景色なのに、涙が出てきちゃって。なんてきれいなんだろうって。この景色を毎日見られたら、もうそれだけでいいやと思ってしまったんです。

―そのときのトキコさんだったから、一層葉山の海の景色が胸に響いたんでしょうね。
そうですね。人って、必ず節目があるじゃないですか。「今だ!」という転機が人生の中で何度かあるから、それをうまくキャッチして行動に移すって本当に大事だなと思いました。場所にときめいたことが原動力になったので、転機に気づける力は鈍感になりたくないなと。最初はお友達できるのかなとか、仕事は行けるんだろうかとか、不安はありました。でも引越して、「100%よかった!」と今は思っています。

▲ リノベーションでモルタルに仕上げたキッチンが素敵。壁には息子さんが描いた海の絵が。彼曰く、海には竜が住んでいるのだとか…!
▲ リノベーションでモルタルに仕上げたキッチンが素敵。壁には息子さんが描いた海の絵が。彼曰く、海には竜が住んでいるのだとか…!

働く時間は短くなり、こなせる量は増えた

―一日の大体の過ごし方を教えていただいてもいいですか?
朝、SUPに行くときは5時半に起きて、普段は6時とか6時半に起きます。子どもたちと一緒に起きてリビングへ行くと、旦那さんが作ってくれた朝ごはんが並んでいるので、それを食べます。漁港で取れたお魚とかお味噌汁とかがパ~ッと並んでいて…めちゃくちゃ上手で、本当反省って思います(笑)

―そんな匂いがしたら、私も6時に起きられる気がします…!(笑)
起きられますよねぇ。朝ごはんを食べて、子供を学校に送り出して、旦那さんと海に行ってお参りをして、それから家で仕事をするのがいつもの流れです。2~3時間仕事をしたら、屋上に上がってお茶を飲んだり、富士山を眺めながらストレッチをしたりして、また仕事に戻ります。

―クリエイティブなお仕事をされている分、気分のリフレッシュは重要ですよね。
あまりにも集中が途切れたら、ジョギングに出てしまいます。海沿いを走れる道があるので、鎌倉まで走って戻ってきたり。夕方に走ることが多いけど、夜は星空がすごくきれいなので、ご飯を食べたあとに星を見ながら走ったりもします。夜は、22時くらいには寝ています。

―葉山にいると、自然との距離がすごく近いんですね。
そうですね。住む環境は、こんなにも人の心に直結してるんだなと実感する日々でした。東京にいた頃は夜中の2時くらいまで仕事をしていることも多かったのですが、どうしてあんなに仕事が終わらなかったんだろう?と今なら思います。働く時間は短くなったのに、引越してから仕事量は倍増したんです。以前はずっと頭の中が仕事でいっぱいで気も張り詰めていたのですが、時間の使い方がうまくいっていなかったんですよね。

―ご近所の方との関係性にも変化があったのでしょうか?
東京にいた頃は、周りのお母さんもすごく頑張って働いていて忙しそうで、「今日子供見てもらえる?」なんてSOSを出せませんでした。葉山では、出張があるたびに見てくれるおうちもあって、本当に助かっています。

―東京との距離感はどうですか?
ちょうどいいなと思っています。週に2~3回ほど都心にも出ているのですが、グリーン車のチケットを取ってコーヒーを持って行って、移動時間の間に原稿を完了させるというリズムが出来上がりました。家に帰ったら海に行けると思うと、集中できるんです。

―いい仕事をするためには、仕事“だけ”ではいけないということですかね。
今の時代、のべつ幕なしに朝から晩まで仕事するってナンセンスじゃないですか。葉山にいると、朝だけ仕事するという人も多いので、仕事の仕方は変わりましたね。

▲ 澄み渡る空と海のブルーと、健康的で透明感のある笑顔がとてもお似合い。
▲ 澄み渡る空と海のブルーと、健康的で透明感のある笑顔がとてもお似合い。

規則正しい生活がすべての土壌づくり

―住む場所を変えたことは、子育てにも大きな影響がありましたか?
男の子が二人いて、二人ともスポーツがだいすきなので、東京で暮らしていたときは、週末どこで体を動かせるかということがいつも重要な課題でした。当時は旦那が単身赴任で一人で面倒を見ていたので、一緒にサッカーをした後、ジョギングして…ということをしていました(笑)葉山にいると、海だったり山だったり、子どもたちが自然と運動できる環境があるので、本当に子育てしやすいです。

―男の子二人って、想像するだけですごく体力を使いそうです…。
二人目を産んだとき、2倍の労力がかかるんだろうと思っていたけど、そうじゃなかった。二人に増えた瞬間に、10倍の労力が必要なんです(笑)

―え…!2倍じゃないんですか?!
子供はあっちこっち行くので、どっちも追いかけなくてはいけないし、二人ともすぐ迷子になっていましたね。その時はとにかく睡眠時間が足りなかったので、冷えとりや漢方をやってももう追いつかなかったです。すこやかな土壌があるからこそ、冷えとりや漢方が浸透するんだと思い知りました。

―なるほど。そのために、規則正しい生活ということでしょうか?
そうですね。朝、日の出とともに起きて、夜はもう早く寝るというシンプルなことです。

―冷えとりはいつからされていたんでしょうか?
冷えとりは、もうずっと昔からで、小学生くらいの頃から母親に毛糸のパンツを履かされたりしていたんです(笑)受験勉強のときも、体が冷えていると頭が働かないなという実感があって、足首を温めたりしていました。なんとなく、体を冷やさないようにしようという意識は根本にありましたね。

―冷えとりは何か体調不良があったからするということではなくて、日常に浸透しているものなんですね。
暮らしの一部です。シルクが肌に触れると、気持ちがふっとやわらぐじゃないですか。体を温めるためでなく、気持ちがやわらぐ感覚が好きで愛用しています。肌ってすごく、敏感に察知しますよね。

▲ 長年ご愛用いただいているにも関わらず、製品の状態がとてもよく、丁寧にお手入れくださっている証拠だと感動…。
▲ 長年ご愛用いただいているにも関わらず、製品の状態がとてもよく、丁寧にお手入れくださっている証拠だと感動…。
―体は素直ですよね。お子様も使っていらっしゃるんですか?
子供が小さいときはだいぶ肌が敏感だったので、シルクの下着を着けたりしていました。葉山に来てからは体が強くなったのですが、東京にいた頃はアトピーのようになっていて。鍼灸の先生に見せたら、体がすごく冷えてるよと言われたんです。

―親子でご愛用いただいているとはうれしいです。家族円満の秘訣はありますか?
我が家はみんなスポーツが好きなので、一緒に笑いながら体を動かすというのは、本当にすこやかな気持ちを作るなと思います。自宅の後ろが山なので日曜の朝は登山して、海を眺めながら山の上でご飯を食べたり、みんなでテニスをしたりしています。少しむしゃくしゃすることがあっても、体を動かしていると、すぐ体から抜けるようになりました。

葉山で取り戻した、ときめく感度

―最近はどんなことにときめきましたか?
私の仕事は、取材してからはそれをひたすらデータにする仕事なので、パソコンと向き合う時間が長いときは一日中になってしまうんです。そういうとき、SUPのボードを持って、海の上に立つだけで、ものすごくときめきます。自分が海の真ん中に立つと、頼る場所もないし、身一つで地球の上に浮かんでいる感覚になるんです。するとその瞬間、色々なことに感謝の気持ちがこみ上げてきます。

―素敵です…。海に出るたび、そんな気持ちになれるなんて。
美しい景色に出会ったときはもちろん、職業柄、取材で様々なところに出かけていくので、ときめく瞬間は多いと思います。あとは自分の企画が通ったり、手掛けた雑誌が書店に並んでいたり、自分が素敵だなと感じたことを世の中に紹介できたときは、やってよかったなぁとときめきますね。

―プライベートでも仕事でも、ときめく瞬間がたくさんありそうですね。
ときめくという感覚は、葉山に来て、戻ってきた気がします。20代は一生懸命に働いてやっぱり楽しかったけれど、子育てしながらとなると、常に時間との勝負で目の前のことに必死で、ときめく暇もありませんでした。一度は鈍っていたけれど、自分の中にゆとりができると、感度がすごく研ぎ澄まされるんですよね。

―最後に、トキコさんにとっての「ときめき」を教えていただけますか?
「海ですごす時間」です。

トキコさんのくらしきぬ愛用品

▲ [絹がさね]一分丈ショーツ。海に行くときは短パンを穿くことが多いのですが、下腹部だけ温めたいとき、下に穿いています。素材感がすごく好きで、肌ざわりが気に入ったのか子供も勝手に穿いていました(笑)
▲ [絹がさね]一分丈ショーツ。海に行くときは短パンを穿くことが多いのですが、下腹部だけ温めたいとき、下に穿いています。素材感がすごく好きで、肌ざわりが気に入ったのか子供も勝手に穿いていました(笑)
取材・文:佐藤文子
撮影:瀬良智也
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くらしきぬ

倉敷発、天然素材の靴下とインナーウエアのくらしきぬです。 せわしない日常の中で、ふわっと体も心もあたたまって「目の前の景色を大事にしたくなるものを」をお届けします。もっと見る

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